化学調味料(うま味調味料)の話は、なぜかいつもこじれる。
「使っちゃダメ」「使っても良い」
世間の議論は、すぐにこの二元論になりがちだ。
だが私は、この「ゼロヒャク思考(オール・オア・ナッシング)」こそが、感性を育む上での最大の敵だと考えている。
料理の世界だけの話ではない。
この思考停止は、人生の意思決定において致命的なバグを生む。
だから私は、あえて、料理を通じて子供にこれを教えたいと思っている。
そもそも「自然=善、人工=悪」が間違い
まず、世の中にはびこる「自然なものは身体にいい」という信仰は、完全に間違ってる。
そもそも「自然界の物質」とは何か。
多くの人がイメージする「植物」だけではない。
以下のように、その範囲は広大だ。
- 生物由来
植物由来(野菜、穀物、海藻、きのこ等)
動物由来(肉、魚、乳、卵)
微生物由来(発酵で生まれる成分:アルコール、有機酸、アミノ酸など) - 非生物由来
鉱物由来(塩=塩化ナトリウム、鉄、カルシウムなど)
大気・水由来(CO2、水など)
見ての通りだ。 これら全てが「自然」である。
ここには、人間に必須のミネラルもあれば、微生物が起こす化学反応(発酵)も、立派な自然の営みだ。
毒に関しては、下記のとおり
- 植物毒:トリカブト、ジャガイモの芽(ソラニン)など
- 動物毒:フグ毒(テトロドトキシンは細菌由来説が有力)、ヘビ毒など
- 微生物毒:ボツリヌス毒素など
つまり、「自然だから安全」という理屈は、科学的に成立しない。
逆に人工物であっても、純度が高く、品質が安定しているものは多いし、医薬品にも使われている。
重要なのは「出自(どこから来たか)」ではない。
「何を、どれだけ、どう使うか(用量と用法)」だ。
この視点がないと、化学調味料の議論はただの宗教戦争になる。
料理は「感覚」ではなく「構造設計」だ
私が料理において最も重視しているのは、「構造(ストラクチャー)」という視点だ。
料理を、なんとなくの「感覚」として捉えるから、化学調味料の使い所を間違える。
料理とは、「建築」と同じ。
- 基礎工事(素材・下処理): 建物の土台。ここが腐っていたら何をしても無駄。
- 柱・梁(塩・醤油・味噌・熱): 建物を支える主要構造部。味の骨格を作る。
- 内装・補強(スパイス・薬味・化学調味料): 住み心地を良くするための調整。
化学調味料を否定する人は、この「構造」を見ずに、感情だけで「人工物はダメ」と言っているに過ぎない。
逆に、化学調味料に頼りすぎる人は、「基礎」や「柱」がない状態で、いきなり内装工事(化学調味料)だけで家を建てようとしている。
見るべきは「自然か人工か」ではない。
「今の設計において、構造強度が足りているか?」だ。
もし柱(出汁や塩味)が弱いなら、補強材(化学調味料)を注入して強度を出す。
それは極めて合理的な「設計判断」である。
化学調味料は「補助輪」として使え
ゼロヒャク思想を捨てると、料理の解像度が一気に上がる。
化学調味料を「敵/味方」で見るのではなく、「機能を持ったパーツ」として見てほしい。
- 化学調味料の機能は優秀だ。
- 旨味を足す力が強い(ブースト効果)
- 再現性が高い(品質安定)
- 時短になる(工数削減)
だが、弱点もある。
- 味が単調になる(均一化)
- 素材の個性を塗りつぶす(ノイズ)
この「トレードオフ(メリットとデメリットの交換)」を理解することが、戦略的な料理の第一歩だ。
私はこう定義している。 「少量は武器。過剰は思考停止。」
ベースの味(塩・醤油・出汁)がしっかりしている状態での「ひと振り」は、味の輪郭を際立たせる最強の補強材になる。
しかし、最初からドバドバ入れて味を作ろうとするのは、私自身は好まない。
このさじ加減こそが「知性」である。
我が家の化学調味料の実務運用ルール
概念だけでなく、我が家の具体的な運用ルールも紹介しておく。
- ルール1:在庫リストから排除しない
「絶対に使わない」と決めると、出汁をとる時間がない時に詰む。
「使ってもいい」という選択肢を持っておくことで、精神的な余裕(バッファ)が生まれる。 - ルール2:目的は「継続」である
家庭料理はレストランではない。毎日続く「運用」だ。
100点の手作りを狙って疲弊するより、80点で毎日回し続ける方が、経営として正しい。 - ルール3:使用は「最後の微調整」のみ
最初から入れない。出汁・塩や醤油でベースを作り、最後に「何かが足りない」と思った時だけ、ピンポイントで投入する。
これなら味が支配されない。 - ルール4:子供に「禁止」と教えない
「これは毒だからダメ」と教えれば、子供は正解探しをするようになる。
育てたいのは「自分で調整できる頭」だ。
料理の意思決定は、人生の縮図だ
私が一番伝えたいのは、料理の味の話ではない。
「極端な思想に走るな」ということだ。
「これは絶対ダメ」「これさえやれば勝てる」。
こういう短絡的な情報は、分かりやすくい。
だが、現実はいつもグラデーションであり、正解は「バランス」の中にしかない。
化学調味料を毛嫌いするのではなく、特性を理解して使いこなす。
その姿勢は、将来子供が仕事や人間関係で直面する「複雑な問題」を解決する力になる。
目新しさを盲信するな。 ゼロヒャクで切り捨てるな。
必要なのは、自分の舌と頭で「最適解」を調合する力だ。
私はそれを、毎日作る料理で、少しずつでも子供たちに伝えていきたい。





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